対談
 第1部 顔の見える作り手たち(1)
 第2部 顔の見える作り手たち(2)
 第3部 輪島の作り手たち
 第4部 使い手たちからの素朴な質問
 第5部 私好み[高森寛子篇]
 第6部 私好み[小川マア篇]
 
写真
 Part 1 二人が考える普段使い
 Part 2 うるしの器・目のつけどころ
 Part 3 私好み[高森寛子]
 Part 4 私好み[小川マア]
 
漆の器の作り手紹介
 
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第6部 私好み[小川マア篇]
 
[奥田達朗]
 
小川 僕は奥田さんのことをこう評価しています。「現在主流になった無地・普段使いの器は、奥田達朗から始まった」と。より丁寧にいえば、「沢口さんと奥田さんから」というべきかもしれませんが……。奥田さんは輪島の塗師屋・奥田漆器店の跡取りだったのですが、若い頃から、当時の高級漆器制作へ向いていた産地輪島の現状を憂えていたようです。限られた上流階級だけをお客として沈金・蒔絵の漆器ばかりを売らずに、庶民が気軽に毎日使える器を作らなくては漆業界に明るい将来はない、そう考えていたと聞いたことがあります。今から四半世紀前の話ですが、高森さんがいつもおっしゃっていることと同じ志の人がもうずいぶん前に輪島で活動していたんです。
高森 まったく立場が違いますけどね、私は使い手ですから。奥田さんが夢見ながらも道半ばで亡くなってしまわれた後、何十年も経ってから、やっと少しずつ世の中が動き出した感じですね。ごくごく普通の生活者が普段に漆のものを使う気分になってきたのは、この10年くらいのことです。
小川 奥田さんの残した業績の中で一番大きいと僕が思うのは、合鹿椀を再評価したことです。1960年代にあって、合鹿椀はそんなに知られた存在ではありませんでした。当時、古い合鹿椀をかなり沢山集めて熱心に研究したという話も聞きました。そういう古の漆工への真摯なまなざしも、奥田さんという作り手の本質を物語っていると思います。